デリヘルで働く 店員(男子)の就職面談【実録】

そこの求人に応募を考え始めた時から、もう一人の私が「やめた方がいい」と囁き始めた。

そんな気乗りのしない求職を考えたのも、他に職が無いからにほかならない。「今後のご活躍をお祈り申し上げます」この結びで終わる手紙と共に、自らの履歴書はA4フラットファイルをパンパンにしていた。

そこの求人とは「デリヘル」の男子従業員であった。「デリヘル」の「デリ」とは「デリバリー」の略で、「ヘル」とは「ヘルス」の略である。さらに「ヘルス」とは「ファッションヘルスマッサージ」の略語だ。「装いのある健康マッサージ」ということになるが、その「装い」が曲者だ。「装いのある健康」とは「殿方が快感を得る」ことに他ならない。要するに、女子従業員が殿方の局部にマッサージを施して快感を与える仕事を「ファッションヘルスマッサージ」と言う。そして、その女子従業員を殿方のもとへお届けすることを「デリバリー」と称する。だから、デリバリー・ファッションヘルスマッサージ、略して「デリヘル」だ。

以上は私の勝手な解釈だが、当たらずとも遠からずというところだろう。そして、男子従業員の仕事は、殿方の受付と女子従業員のお届け及び管理ということになる。

近頃は殿方の方にも、様々な「マッサージ」をさせてあげるなど、「女子最後の一線越え」以外は料金次第であるという。オプションでSMや各種コスプレ(女学生や看護婦などのコスチュームをまとってのプレイ)のサービスも用意されている。これらデリヘルの仕事内容については、インターネットで知った。

求職対象に風俗という言葉が浮かんだその時から、「やめた方がいい」という囁きを打ち消すように、自分なりにリスクを考えながら、既存の風俗ではなく最近の風俗では?それには何が?と思いを巡らせていった。そして、何故か・・デリヘルにたどり着いた・・

調べるとデリヘルはここ急速に拡大した業界のようだ。無店舗経営が可能というのが要因だろうか。開業を請負う業者も多い。インターネットで調べただけでもデリヘル業者は都心に集中しているのがわかる。それに比べると地方都市はまだまだだ。それでも、私の居住地に近い地方都市にはけっこう進出していて、その中に男子の求人広告を出している業者がいくつかあった。

さっそく電話を入れたが、3店舗立て続けに採用は済んでいるという。ここもまた求職難なのか?「やめた方がいい」という囁きが聞こえて来る。それでも電話を続けて、5店舗目で面接ということになった。電話に出たのは男の店長であった。面接は店長が店で行うという。その店長の電話応対は下手な企業顔負けの見事なものであった。


面接の日。指定された時刻は夕刻であった。図ったように強い雨足に見舞われた。私はきちんとネクタイ背広を着用し、履歴署と職務経歴書を携えて家を出た。目指す店舗は風俗街の一角にある。街にネオンサインが灯るにはやや早い時間帯を店に向かう。「本当に行くんだ」「やめた方がいい」「採用になったら家の人間には何と言うつもりか」

傘をたたく雨の音に混ざって「囁き」が反芻する。

インターネットの求人広告によると、デリヘルの従業員には希望により別企業の名称による給料明細や社員証が発行されるという。「家の人間をだますのか」「囁き」がますますうるさい。

目指す店の前に着いた。恐る恐る中を覗く。受付に額が広く青白い顔色の男性が座っているのが見える。面接には、まだだいぶ時間がある。周辺を歩いて時間をつぶすことにする。しばらく歩くとコンビニがあり、そこで雨を逃れた。雑誌コーナーの前に立つと後方から2人の女子高生の会話が聞こえる。ハンパではないドスの聞いた怨みつらみのやり取りだ。平気で人に絡みそうな雰囲気がある。早々にコンビニを出て、開店前の居酒屋の軒下で傘の中にたたずんだ。

「自分はとんでもないことをしようとしているのかもしれない」改めてそう思いつつも、約束の時間が来て店に向かった。

店に入ると店長は電話中で、待つように言われる。受付のユニットはベニヤの粗製で、どう見ても素人が作ったものだ。とにかく、内装の全てが入口の立派な電飾看板とは対照的である。奥が女の子達の待機所のようだが、極めて狭そうな印象を受ける。

店長は電話が終わっても、さっそくの来客で手が離せないでいる。来客の応対を聞いていると、近場のホテルやレンタルルームで待機させるケースが多い。どの客も皆若く常連もいた。客の目もあり、私は受付ユニットの片隅に鞄を持ったまま立ちつくしていた。みじめな気分だ。

やがて店長の手が空き、やっと面接が始まった。店長は私に椅子と温かい缶コーヒーをすすめてくれた。

店長は見た目よりもずっと若かった。25歳だという。元コンピューターのシステムエンジニアだそうで、この店のホームページ作りと更新、客とのメールの交信など、全て店長が行っているという。前職当時、アルバイトで始めたデリヘルが今、本業になったとのこと。素直に「もったいない」と思ったが、人生いろいろあるのだろう。とにかく、物心両面にわたり心の行き届く良く出来た人物であった。いずれ私がどこぞの社長にでもなろうものなら、ぜひ雇いたい人物である。

店長は私との質疑応答で、どこの店も大差ないとして、「いずれわかることだから初めから全てお話します」と言い、勤務の実態を大要以下のとおり話してくれた。

  • 女の子が日に3万円稼ぐのは容易ではない。
  • 男子従業員の月給は一律15万円からスタート。特にボーナスは無い。店長の月給は現在、30万円。
  • 勤務は13時から21時と21時から5時の2交代で超過勤務になることが多い。ちなみにkこの日、出番の者が急に休むことになり店長が通しで勤務することになった。
  • 休日は週1日で曜日は決まっておらず、従業員間で相談して決める。
  • 通勤はマイカーで行い、それに女の子も乗せてデリバリーする。ガソリン代は支給され駐車場も使用出来る。
  • 希望によって給料明細に記載される「別企業名」とは、付き合いのある飲食店の名称になる。
  • 女の子を相手にプライドが先行すると仕事にならない。年配者ほどその傾向がある。

面談の終わりに店長は「一度良くお考えになって、もしよろしければ、またいらして下さい」と言って、履歴書と職務経歴書を返してくれた。ちょうどその時、店の裏口から女の子が入って来た。店長が「おつかれさま」と声をかけても無言のままムスッとしている。受付の取付け台にサイフを放り投げると、店の正面口からさっさと出て行ってしまった。

店を出ると雨はあがっていた。私は店に入って間もなく、自らのリクルートルックを滑稽に思っていた自分を恥じた。もう一人の私は、既に何も言わなくなっていた。

今、私は店長のHさんに心より感謝しつつ、彼の幸福を祈っている。

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